
旅館業許可の費用完全ガイド|申請から開業まで必要な費用を徹底解説

旅館業許可とは?基本的な仕組みと費用の概要
旅館業を営むためには、旅館業法に基づく旅館業許可の取得が必要不可欠です。この許可は、宿泊施設の安全性や衛生面を確保し、利用者を保護するための重要な制度となっています。
旅館業許可には、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業、下宿営業の4つの営業種別があり、それぞれ施設の構造や設備基準が異なります。近年では、民泊やゲストハウスの普及により、特に簡易宿所営業の許可申請が増加傾向にあります。
旅館業許可の費用は、大きく分けて以下の要素で構成されます:
- 申請手数料(自治体により異なる)
- 図面作成費用
- 建築確認申請費用(新築・大規模改修の場合)
- 設備工事費用
- 行政書士等への依頼費用(任意)
全国平均では、申請手数料だけで15,000円〜50,000円程度、その他の費用を含めると総額で数十万円から数百万円の費用が必要となるケースが多いのが実情です。
営業種別ごとの旅館業許可費用の詳細
ホテル営業の許可費用
ホテル営業は最も厳格な基準が設けられており、それに伴い許可取得費用も高額になる傾向があります。主な費用項目は以下の通りです:
- 申請手数料:20,000円〜50,000円(自治体により異なる)
- 建築確認申請費用:延床面積により変動(100万円〜500万円)
- 消防設備工事:規模により大幅に変動(500万円〜数千万円)
- 給排水設備工事:各客室への設置が必要(300万円〜1,000万円)
ホテル営業では、各客室に洋式便所と洗面設備の設置が義務付けられているため、既存建物を改装する場合でも相当な工事費用が発生します。
旅館営業の許可費用
旅館営業は日本の伝統的な宿泊形態で、ホテル営業に次ぐ厳格な基準が適用されます:
- 申請手数料:18,000円〜45,000円
- 和室設備費用:畳、ふすま等の設置・改修(50万円〜200万円)
- 共同浴場設備:多くの場合必要(200万円〜1,000万円)
- 調理場設備:食事提供を行う場合(100万円〜500万円)
旅館営業では和室中心の客室構成が求められるため、洋室からの改装費用が高額になるケースがあります。
簡易宿所営業の許可費用
簡易宿所営業は最も取得しやすい許可として人気が高く、民泊やゲストハウス運営者の多くが選択しています:
- 申請手数料:15,000円〜30,000円
- 最低設備費用:共同利用設備で対応可能(50万円〜300万円)
- 防火設備:規模に応じた消防設備(30万円〜200万円)
- 衛生設備:洗面、便所、浴室等(100万円〜500万円)
簡易宿所営業は相部屋での宿泊も可能で、設備基準も比較的緩やかなため、初期費用を抑えて旅館業を始めたい方に最適です。
申請手数料の地域別比較と最新情報

旅館業許可の申請手数料は地方自治体が条例で定めるため、地域によって大きな差があります。以下に主要都市の申請手数料をまとめました:
主要都市の申請手数料一覧
東京都(23区内)
- ホテル営業:44,000円
- 旅館営業:36,000円
- 簡易宿所営業:25,000円
- 下宿営業:18,000円
大阪府
- ホテル営業:42,000円
- 旅館営業:34,000円
- 簡易宿所営業:23,000円
- 下宿営業:16,000円
京都府
- ホテル営業:40,000円
- 旅館営業:32,000円
- 簡易宿所営業:21,000円
- 下宿営業:15,000円
地方都市では、これらの金額よりも20〜30%程度安い傾向にあります。また、一部の自治体では観光振興策として手数料の減免制度を設けている場合もありますので、申請前に必ず最新情報を確認することが重要です。
手数料以外の必要書類作成費用
申請には多数の書類が必要で、専門家に依頼する場合の費用も考慮する必要があります:
- 建物図面作成:10万円〜50万円
- 構造計算書:20万円〜100万円(必要な場合)
- 消防計画書:5万円〜20万円
- 各種証明書取得:1万円〜5万円
設備工事費用の詳細と節約のポイント
旅館業許可を取得するためには、法令で定められた設備基準を満たす必要があり、この設備工事費用が総費用の大部分を占めることが多いです。
必須設備工事の費用内訳
消防設備工事
- 自動火災報知設備:30万円〜200万円
- 消火器・消火栓:10万円〜100万円
- 避難設備:20万円〜150万円
- 排煙設備:50万円〜300万円(必要な場合)
衛生設備工事
- 便所設備:1室あたり20万円〜80万円
- 洗面設備:1室あたり10万円〜30万円
- 浴室設備:共同利用の場合100万円〜500万円
- 給排水配管工事:100万円〜500万円
電気設備工事
- 照明設備:50万円〜200万円
- 非常用照明:20万円〜100万円
- コンセント増設:30万円〜150万円
費用を抑える効果的な方法
設備工事費用を抑えるためには、以下のポイントを押さえることが重要です:
- 既存設備の活用:可能な限り既存の設備を活用し、最小限の改修で基準を満たす
- 複数業者からの見積もり取得:工事費用は業者により大きく異なるため、必ず相見積もりを取る
- 工事時期の調整:閑散期に工事を行うことで費用を抑えられる場合がある
- 補助金・助成金の活用:自治体の観光振興補助金等を積極的に活用する
特に簡易宿所営業の場合、共同利用設備を効率的に配置することで大幅な費用削減が可能です。
行政書士費用と自分で申請する場合の比較

旅館業許可の申請は複雑な手続きが多く、多くの事業者が行政書士等の専門家に依頼しています。ここでは、専門家に依頼する場合と自分で申請する場合のメリット・デメリットを比較します。
行政書士に依頼する場合の費用
行政書士に旅館業許可申請を依頼する場合の費用相場は以下の通りです:
- 簡易宿所営業:15万円〜30万円
- 旅館営業:20万円〜40万円
- ホテル営業:30万円〜60万円
この費用には以下のサービスが含まれることが一般的です:
- 事前相談・現地調査
- 必要書類の作成・収集
- 行政機関との事前協議
- 申請書類の提出代行
- 許可取得までのフォロー
自分で申請する場合のメリット・デメリット
メリット
- 行政書士費用(15万円〜60万円)を節約できる
- 手続きの流れを詳しく理解できる
- 将来的な変更申請等も自分で対応可能
デメリット
- 法令の理解や書類作成に時間がかかる
- 不備による申請の遅延リスク
- 行政機関との調整が困難
- 設備基準の解釈ミスによる追加工事の可能性
自分で申請する場合でも、事前相談だけは専門家に依頼することで、大きなミスを防ぎながら費用を抑えることができます。
費用対効果を考えた選択のポイント
専門家への依頼を検討する際は、以下の要素を総合的に判断することが重要です:
- 時間的余裕:開業までの期間に余裕があるか
- 法令知識:建築基準法や旅館業法の基礎知識があるか
- 事業規模:大規模事業の場合は専門家依頼が推奨
- リスク許容度:申請遅延による損失を許容できるか
地域別の費用差と補助金・助成金情報
旅館業許可の取得費用は地域によって大きく異なり、また各自治体が独自の補助金・助成金制度を設けている場合があります。
都市部と地方の費用差
都市部(東京・大阪・京都等)の特徴
- 申請手数料が高い(全国平均の1.2〜1.5倍)
- 工事費用も高額(人件費・材料費の影響)
- 土地・建物価格が高いため、総投資額が大きくなる
- 一方で、専門業者が多く競争原理が働く
地方都市の特徴
- 申請手数料が比較的安い
- 工事費用も都市部より2〜3割安い
- ただし、専門業者が少なく選択肢が限られる
- 観光振興策として手厚い支援制度がある場合も
主要な補助金・助成金制度
国の制度
- 小規模事業者持続化補助金:最大50万円(簡易宿所等の小規模事業者向け)
- 事業再構築補助金:最大1億円(既存事業からの転換の場合)
- ものづくり補助金:設備投資に対する支援
地方自治体の制度例
- 京都市:宿泊施設誘致・開業支援補助金(最大300万円)
- 沖縄県:観光関連事業支援補助金(投資額の1/3、最大500万円)
- 北海道:観光振興機構による低利融資制度
これらの制度は募集期間や条件が頻繁に変更されるため、申請前に最新情報を確認することが不可欠です。
補助金申請のポイント
補助金を効果的に活用するためには、以下の点に注意が必要です:
- 事前申請が原則:工事開始前に申請が必要な場合が多い
- 対象経費の確認:すべての費用が対象になるわけではない
- 実績報告の義務:補助金受給後も定期的な報告が必要
- 返還義務:条件を満たさない場合は返還が必要
申請から許可取得までの期間と費用発生タイミング
旅館業許可の申請から許可取得までには一定の期間が必要で、その間の費用発生タイミングを把握することは資金計画上重要です。
標準的な申請スケジュール
事前準備期間(1〜3ヶ月)
- 事業計画の策定
- 物件の選定・契約
- 設計図面の作成
- 各種調査・測量
この期間の主な費用:設計費用、調査費用、物件契約費用
工事期間(2〜6ヶ月)
- 建築確認申請(必要な場合)
- 改修工事の実施
- 設備工事の実施
- 消防検査の準備
この期間の主な費用:工事費用(全体の70〜80%)
申請・審査期間(1〜2ヶ月)
- 旅館業許可申請書の提出
- 現地調査の実施
- 補正対応(必要な場合)
- 許可証の交付
この期間の主な費用:申請手数料、行政書士費用
費用支払いのタイミング管理
資金繰りを円滑にするため、費用の支払いタイミングを適切に管理することが重要です:
- 設計・調査費用:契約時に50%、完成時に50%の分割払いが一般的
- 工事費用:着手金30%、中間金40%、完成金30%の3回払いが標準
- 申請手数料:申請時に一括払い
- 行政書士費用:契約時50%、許可取得時50%の分割が可能
特に工事費用は高額になるため、金融機関からの融資実行タイミングと合わせた資金計画が不可欠です。
許可取得遅延のリスクと対策
申請書類の不備や設備基準の不適合により許可取得が遅延するリスクがあります:
主な遅延要因
- 申請書類の記載ミス・添付書類の不足
- 設備基準の理解不足による工事のやり直し
- 近隣住民からの反対意見
- 消防・建築確認等の関連手続きの遅延
遅延対策
- 事前相談の徹底実施
- 余裕をもったスケジュール設定
- 専門家による事前チェック
- 近隣住民への事前説明
費用を抑えるための実践的なテクニック

旅館業許可の取得費用は決して安くありませんが、工夫次第で大幅に削減することが可能です。ここでは実践的な費用削減テクニックを紹介します。
設備工事費用の削減方法
既存設備の最大活用
- 既存の配管・電気設備を可能な限り活用
- 間取り変更を最小限に抑える
- 共同利用設備の効率的な配置
- 段階的な改修による費用分散
工事業者選定のコツ
- 旅館業許可工事の実績豊富な業者を選定
- 必ず3社以上から相見積もりを取得
- 工事内容の詳細な仕様書を作成
- 材料費と工賃を分けて比較検討
経験上、旅館業許可に精通した業者は無駄な工事を避け、結果的に費用を抑えられるケースが多いです。
申請手続き費用の削減
書類作成の工夫
- CADソフトを活用した図面の自作
- 行政機関の無料相談サービスの活用
- 同業者からの情報収集
- インターネット上の申請事例の研究
専門家費用の節約方法
- 部分的な依頼(相談のみ、チェックのみ等)
- 複数の専門家への分散依頼
- 地方の行政書士への依頼(費用が安い傾向)
- 税理士等の既存の顧問先への相談
資金調達の最適化
融資条件の比較検討
- 日本政策金融公庫の創業融資の活用
- 地方銀行の観光事業向け融資
- 信用保証協会の保証付き融資
- 自治体の制度融資の活用
自己資金の効率的な活用
- 初期費用と運転資金のバランス調整
- 設備リースの活用による初期費用削減
- 段階的な事業拡大による資金需要の分散
特に日本政策金融公庫の新創業融資制度は、無担保・無保証人で最大3,000万円まで融資可能で、旅館業の開業資金として多くの事業者が活用しています。
よくある質問(FAQ)

Q1: 旅館業許可の申請手数料は返金されますか?
A1: 申請手数料は、許可が下りなかった場合でも返金されません。ただし、申請を取り下げた場合は、自治体によっては一部返金される場合があります。
Q2: 簡易宿所営業で最低限必要な設備は何ですか?
A2: 便所、洗面設備、浴室(シャワー室)が最低限必要です。これらは共同利用でも構いませんが、利用者数に応じた適切な数の設置が求められます。
Q3: 既存住宅を改装して旅館業を始める場合、建築確認申請は必要ですか?
A3: 用途変更の規模によります。100㎡を超える用途変更の場合は建築確認申請が必要で、追加費用(50万円〜200万円程度)が発生します。
Q4: 旅館業許可の有効期限はありますか?
A4: 旅館業許可に有効期限はありません。ただし、営業を廃止する場合や施設を大幅に変更する場合は、変更届や廃止届の提出が必要です。
Q5: 消防設備の設置基準はどのように決まりますか?
A5: 建物の構造、階数、延床面積、収容人員等により決まります。詳細は消防署との事前協議で確認できますが、一般的に延床面積300㎡以上では自動火災報知設備の設置が必要です。
まとめ:旅館業許可費用の総括と成功のポイント
旅館業許可の取得には、申請手数料から設備工事費用まで含めて数十万円から数百万円の費用が必要となります。費用の大部分を占めるのは設備工事費用であり、営業種別や既存建物の状況によって大きく変動します。
費用削減の重要ポイント
- 事前の十分な調査と計画立案
- 既存設備の最大限の活用
- 複数業者からの相見積もり取得
- 補助金・助成金制度の積極的活用
- 専門家への部分的依頼による費用最適化
成功する旅館業許可取得のためには、単純な費用削減だけでなく、将来の事業展開を見据えた投資判断が重要です。初期費用を抑えすぎて後々の追加工事が必要になるよりも、適切な投資により長期的な事業の安定性を確保することをお勧めします。
また、旅館業許可は取得がゴールではなく、その後の適切な運営が事業成功の鍵となります。許可取得費用とともに、開業後の運転資金や設備メンテナンス費用も含めた総合的な資金計画を立てることが、持続可能な旅館業経営につながります。